裁判長
「尋問の前に何かいうことはないか」
石原莞爾
「ある。 不思議にたえないことがある。 満州事変の中心はすべて自分である。 事変終末の錦州爆撃にしても、軍の満州建国立案者にしても皆自分である。 それなのに自分を、戦犯として連行しないのは腑に落ちない」
裁判長も検事も狼狽して
裁判長
「ジェネラルは戦犯として取り調べるのではない。 証人として調べるのだ」 「証人はそんなこと言ってはいけない。 こちらから訊ねることに対し、『イエス』か『ノー』かを答えればよい」
と注意して検事の訊問に移った。
検事
「満州事変に於ける日本軍の被害の程度はどうか」
石原莞爾
「被害の程度をいい表わすのに日本語には生憎『イエス』『ノー』といった言葉はない」
皮肉たっぷりに切り返すと法廷は再び爆笑に湧きかえった。
横山臣下平著『秘録石原莞爾